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華やかな銀幕の世界とは程遠い古びた映画館だけど、ひとたび映画が始まれば、オデオン座は、観客の感情を揺さぶる旅へと導く。
時には、タイムマシーンのように。
或いは、宇宙ロケットのように。
「…今までありがとう」
形の良い唇の間からも漏れた城島君の言葉に私は、驚いた。
城島君の瞳は、確かに私を捉えていた。
「マナミが守ってくれたから、オデオン座は何事もなくやってこれた。
感謝してるよ。本当にありがとう」
城島君には、見えているのだろうか?
まさか。そんなワケない。
でも、私は大きな声で応えた。
「そうよ…台風が来れば、看板が飛ばないように押さえていたし、客が火の点いたタバコをポイ捨てした時は、急いで揉み消したりしたよ。
それぐらいしか、出来なかったけどね」
「それで充分さ。
通行人を怪我させることもなかったし、火事にもならなかった」
彼は真っ直ぐに、私の方を見て言った。
信じられない。
これまで、私が見える人に出逢ったことがなかったから。
彼はゆっくりと階段を登り、私の横に座った。
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