15人が本棚に入れています
本棚に追加
「640光年って、どういうこと?」
「光の速度で到達するまで640年かかるってことだよ。途方もない時間だ」
今は、もうない残像。
変わっていないと思ったけれど、目の前の城島君は、あの頃とは違う。
「そうなの?…私、確かめてくる」
私の体は、ふわりと宙に浮き上がり、上昇し始めた。
城島君を見下ろし、オデオン座の屋根を突き抜ける。
こんなに高く舞い上がったのは、初めてだ。
でも、怖くはない。
白いレースの裾が、夜風にひらひらと翻る。
オデオン座のある街並みを一瞥してから、群青色の夜空を見上げた。
まずは、大きな真珠みたいな月を目指して、進んでいこう、と思った。
「ベテルギウスの幻影」
fin
最初のコメントを投稿しよう!