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昼休み。
私は外の空気が吸いたくて、社屋の屋上でランチすることにした。滅多に人のこない場所だけど、先客がいた。
黒いスーツにバリッとしたワイシャツ姿の真中さんだ。
この人、1年前に転職して役員専属運転手になった人。運転手なんてもったいないくらい、スラリとしたいい男。物腰も洗練されていてホテルマン、って感じ。
お互いに軽く会釈する。
1つだけしかないベンチに二人で並んで座った。
オフィスビル街の景色を一望出来る。遠くには工業地帯。その先は少しだけ海が水平線のように見える。それぞれガサガサとビニール袋を探り食べ物やお茶を取り出す。
「こんなに素敵な眺めなのに、なんでみんな来ないんだろ?もったいないね!」
「階段を使わないと来れないから、昼休みの時間がもったいないと思うのかもしれませんね」
真中さんが生真面目に答える。
彼はいつもデスマス調なんだ。
真中さんが時々屋上で休憩を取ると知ったのは、情報魔の須藤さんが「真中さんて煙草も吸わないのに行くのよ」って教えてくれたから。
それから私はちょくちょく屋上に行っちゃあ、真中さんがいたらしばし会話をするのが密かな楽しみだった。
「あのね、須藤さんて、若い頃は前社長の愛人だった…という噂だよ。だから婚期を逃しちゃって今も独身なんだって。美人だけど、あの歳になるとやっぱ内面のキツさがにじみ出るんだよねえ」
「そうですか…」
コンビニおにぎり片手に私は口を滑らせてしまったと気付いた。
真中さんが返事に困っていると感じた。横顔の眉が曇っている。
真中さんにとって、須藤さんは上司みたいなもの。イケメンに弱い須藤さんは新入りドライバー真中さんにすごく親切にしている。だから真中さんが須藤さんを悪く思うはずがない。
須藤さんの悪口きかされて困惑しているのかも…
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