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「あの…ごめんな」
「住田さん」
真中さんが私の言葉を遮った。
「今度、酒でも飲みに行きましょう。あ、お酒飲めますか?」
唐突な誘いに私は真中さんの顔をじっと見る。端正なのに人懐こい瞳。
「あ、はい。ビールならジョッキで2杯くらい。真中さんは?」
「僕は…10杯くらいですね」
「え。すごい!酒豪ですね。それだけ飲めたらストレス吹き飛びますね?」
私が叫ぶと真中さんは照れ臭そうにぴょこんと頭を下げた。
「酒場の雰囲気が好きなんですが、あんまり酔わないたちなんで。気付いたらそれくらい飲んでるんですよ。金がもったいないですね…それに僕はストレスないんですよ」
「ストレスない?ええ、嘘?
ストレスない人なんているの!」
私の素っ頓狂な声に真中さんはクスクスと笑いだす。
「僕はないです。車を運転するのが好きだし、車をいじるのも好きだから。役員の方もいい人ばかりで恵まれてます。だいたい定時に終わるからスポーツクラブで泳げるし。これで1日の疲れが吹っ飛びます。
以前は出張残業ばかりでプライベートなかったから。思い切って転職して良かったなって思えるからストレスないですね」
「ストレスないです、なんて稀有なセリフが言えるなんて衝撃!ですね…私もそうありたいなあ」
私は感嘆の吐息を漏らした。
これから先、彼の虜になってしまう予感がした。
【完】
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