CLUB ビシャス

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返事をためらう俺の前で、沙織の瞳に涙が溢れ出した。 好きなの。お願いだから断らないで…… これほどまでに純粋な涙を見たことがなかった。それは衝撃といっても言い過ぎじゃない。 ズドンとストレートに突き刺さった。 気がつくと俺は…沙織を抱きしめていたんだ。 付き合い始めて1ヶ月もすると、小さな喧嘩を繰り返すようになった。 律儀そうに見えるのに、沙織は時間にルーズだったから週末ごとのデートに遅れてきた。 それだけなら良かった。 俺が一番嫌だったのは、沙織が男にもだらしないと分かったから。 元彼、年上の男友達。同学年の男子生徒。ひんぱんにメールをしていた。 17歳の俺が嫉妬を隠せるわけもない。水泳部のライバルだった奴とも仲が良いと知った時は腸が煮えくり返る想いを抑えられなかった。 ごめんね、もうやめるから… 沙織の涙声を信じて、気持ちを切り替えるしかなかった。 ツタヤでシドアンドナンシーを借りたのは、俺がパンクロックが好きだったから。競泳中、頭の中でギターのノイズを再生する。そうすると水に住む生き物になれた。 観たのは、沙織の家の居間。 彼女の家族は誰もいなかった。 映画を観たあと、沙織は涙を流した。 お前なしでは、生きられない。っていうセリフ感動しちゃった。 私もハルなしでは生きられないから…… 俺は少し戸惑いながらも、ソファで沙織をきつく抱きしめた。 脳内で再生されるシドの「マイウェイ」を聞きながら。 沙織の愛に負けないように、俺はこいつを愛さなければ。 そう強く胸に想いを込めて。
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