CLUB ビシャス

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ピンピコ、ピンピコ、ピコピコ… 落ち着いた調度の部屋で、そぐわない電子音が鳴り響く。 俺は手を伸ばし、暗がりで姿のない突然の来訪者と会話する。相手はひどく焦っていた。 「…分かった。1時間くらいで到着する」 俺はため息を短く吐いてから起き上がり、白いシャツを羽織った。 衣擦れの音がして、沙織が背後から問う。 「召集令状なの?」 「ああ。急変だ」 「いやね…まだ6時にもなっていないじゃない。コーヒーでも淹れましょうか?」 沙織が外国人女性が好みそうな深紅の着物ガウンを素肌にまとう。若くも老いてもいない。その繊細な首筋、なめらかな純白のデコルテは、もはや美術品だ。 「いいよ。時間がない」 俺は視線を外した。不埒なことを考えている場合じゃない。 「シャワーは浴びなくてもいいわね。お家に帰るわけじゃないんだから」 クスクス笑いながら俺と鏡の前に割り込み、ネクタイの両端を奪い取った。 「それにしても面白いわ。あの内気な男の子がカリスマ心臓外科医なんて呼ばれてるなんて」 シュルシュルと耳触りの良い音を立て、完璧な形が作られていく。 「止めてくれ。カリスマでもなんでもないよ。平野の作り話だ」 俺は少し不機嫌に応えた。 「ところで裁判はめどたちそうなの?」 「ああ。病院長から和解の提示があった。遺族側はしぶしぶ納得したよ」 「それは良かったわ。平野さんも言ってたじゃない。相手が悪かったのよ。70過ぎのおじいちゃんが亡くなって医療ミスだって騒ぐのがおかしいわ。誰が聞いたって。賠償金目当てよ」 「もう忘れるさ。前を向かなきゃ患者を助けられない」 「素敵ね」 沙織が右手でグッとネクタイを掴み、俺の顔を引き寄せた。 爪先立ちした唇と俺の唇が触れ合う。
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