儚き露

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うとうとしているとガラステーブルに置いたスマホが振動し、目が覚めた。 手に取ると美咲からのラインだった。 [お疲れ様。 今日は名古屋からです。 講習会は盛況でした。 天むすや味噌おでんにお酒を頂き、ご機嫌です。では、おやすみなさい] ノーテンキなメッセージと星が飛び出すスタンプ。 美咲は食べることが好きな女だ。だが、とても痩せている。脳裏に浮かぶあいつの顔はいつも顰め面だ。 短い結婚生活の後半、いつも機嫌が悪かったから。 美咲がこの家で俺の妻としてつい半年前まで暮らしていたなんて嘘みたいだ。 昔から料理好きで俺と別れたあとはフードコーディネーターという肩書きを得て、全国を飛び回っているらしい。 俺と美咲が離婚したのは正解だ。 子供はいないし、彼女は家でいつ帰るか分からない夫を待ち続ける性格でもなかった。 明るい美咲から笑顔が消えた。 それをフォローする余裕なんかあるか。 離婚を切り出したのはあいつだ。別れたあともいい関係でいましょうねと自分勝手なことを紅い唇で言ってのけた。 でも、分からないのは仲が冷えて別れたはずなのに、出て行ったあとも美咲は頻繁に俺に連絡をしてくる。 それは日常の出来事の報告で返信するのがとても面倒だ。 どうでもいい。クソ食らえ。俺とお前はもうアカの他人だ。本音はもう止めてくれとしか言いようがない。 だが、朝になったら俺は簡単な返信を打つ。もうこれ以上、彼女を傷つけたくはなかった。
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