憧れ

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ぼんやりしていると、室井さんが一度事務所を出ていった。 彼女が通るといい匂いが鼻をくすぐる。 もしかしたらそれは気のせいかもしれないけれど、彼女はいい匂いがするって、どこか私は思いこんでるところがある。 でもそれは、私に限った事ではないとも思う。 誰でもが彼女を振り返りたくなるのは女の私でも気持ちがわかる。 美人でスタイルもよくて、頭もいい。性格は彼女の笑顔に滲みでているかのような気さえする。 けれど、何でも持ち合わせている彼女を妬(ネタ)ましいなどとも思わない。むしろ、完全に憧れる。 彼女は気さくで、男女問わず誰にでも優しい。 ……誰にでも優しいから、この社内には彼女にとっての特別な存在はいないような気がする。 彼女に彼氏がいないことはこの会社ではみんなが知るほどの噂話だ。 だからと言って、社内で猛烈にアピールをする男性社員の話は聞いたことがない。 みんなちゃんとわきまえているのだ。 彼女はそうそう簡単に手を出してはいけない存在なのだから。
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