『夕焼けと月……』

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  「また、あした」 世界を赤く染めながら。 太陽はゆっくりと、地平線へ沈んでゆく。 愛しい人に別れを告げて。 愛しい人への、想いを燃やして。 「……はい。また、あした」 沈みゆく太陽の真正面。 空へ昇り始めた月は小さく笑みを浮かべ。 束の間の逢瀬を惜しみながら、そう囁いた。 淡く微笑みながら太陽を見送る、清らかで美しいその姿に。 辺りの雲達は、ほんのりと頬を上気させ。 「はぁ……なんて美しいんだろう…」 うっとりと呟いた。 昼の空を護る太陽と。 夜の空を護る月。 誰もが羨む、似合いの二人はいつも、すれ違い。 ほんの僅かな間だけ。 触れ合う事も、愛を語り合う事もなく。 ただ互いを見つめながら。 優しく、微笑み合う。 「………僕ならずっと、貴女の傍に居て。そんな哀しい表情(かお)なんて、させたりしないのに」 赤い太陽が、地平線にその姿を消した後。 僅かばかりの残光を、潤んだ瞳で見つめ続ける月に寄り添いながら。 ひとつの大きな雲が、月への愛を語り始めた。 「お月さま、お月さま」 だから僕を、好きになって? 手を触れんばかりに差し出して。 雲は月に言い募る。 暫くの間黙って俯いていた月は漸く顔を上げ、ニッコリと笑いながら。 静かに静かに、口を開いた。 「私は――――」  
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