番犬と猫

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──雨が、降っていた。 視界などほぼないような暗闇でも鯉口を切った瞬間、固い柄が掌に吸い付いてくる。 腰に下げている時は少しばかり重たく感じるそれも、抜いてしまえば不思議と羽のように軽い。 自然と体が動くような感覚に従い、微かに捉えることの出来る影に向かって刀を横薙ぎに振るうと、研ぎ澄ました白刃が少しだけ鈍い光を映した。 辺りに激しく打ち付ける大粒の雨が部屋に響く不穏な音を掻き消していく。 ……本当、暗躍にはもってこいの晩ですよね。 闇に紛れてくすりと口角を上げると、私は生温いものを噴き出し転げた元仲間の首を跨いで、隣の部屋へと逃げた元大将の背を追った。 「総司」 全てのことが済んで。 動かなくなった細腕を見下ろす私の後ろに立ったのは土方さんだった。 振り返れば私と同じように後ろで一つに髪を結わえたその人が、血の臭いを漂わせて佇んでいる。 その闇に溶け込んだ眼は一片の温もりも感じられないくらいに冷たくて。 まるで本物の鬼みたいだ……なんて、張り詰めていた気が少しだけ緩んだ。 「お疲れ様です。一匹、逃げられちゃいましたね」 「まぁ仕方ねぇ、やるこたやった。人が集まんねぇうちにずらかんぞ」 「はい」 それなのに有無を言わさぬ物言いでさっさと部屋を出ていくから、私も刀に付いた血を払い鞘に仕舞うと慌ててそのあとを追いかける。 悪知恵だけはよく働く土方さんだからこそ、こういう時の言葉は絶対だった。 ぬかるんだ庭に下りると強い雨が全身を打ち、返り血に濡れた肌を洗い流していく。 ……さむ……。 一気に体温を奪った冷たい雨と、足にまとわりついた袴の歩きにくさで少しだけ眉を潜めた時、それは聞こえた。 「……どうして、女まで斬ったんだ?」
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