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逸らしていた視線を前へと戻せば、いつの間にやら私を覗きこむ垂れた目があって。
ぷしゅ
黒い袖から覗く白い手が私の頬を摘まんで、詰まっていた空気を抜いていった。
その距離と恐らく間抜けな顔になってるであろう自分に慌ててその手を払いのける。
「ちょっ!?触るなっ」
「なんで?ええやん。それとも何や、やっぱ自分あれ?意識してまうん?男として」
にやりと笑った顔が激しく癪に障る。
正直、あんなことをしておいて男として意識するなという方が無理な話。女として最も関わりたくない要注意人物だろう。
しかしながら女扱いするなと言った手前、そんな風に言われると意地でも認めたくない。
……というかこんな男に動揺するな私。
いつもは誰とくっつこうが平気じゃないか。
遊んでるだけ、遊ばれてるだけ。反応すればする程こいつが喜ぶだけだ。
落ち着け。
静かに息を吐き、極力眼下を見ないようにしながらその目を見つめ返す。
「此処にいる以上私は男です。貴方こそ、そろそろ私を女扱いするのはやめてください」
私の腰掛ける棟に手をつき、じっと見つめてくる山崎との距離は一尺(約30センチ)もあるかないか。
見下ろすようにして口角を上げるそいつは真っ黒な髪を風に揺らしながら不敵に目を細めた。
「上等や。ま、副長があない言わはるんやったら俺は何でも手つどうたるよ」
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