住み処には

8/14

2435人が本棚に入れています
本棚に追加
/600ページ
──── 「っくしゅ!……あー……」 まった誰か噂しとんな。 すんと鼻を啜ってぶるりと体を震わせる。くしゃみのあとに一瞬毛が逆立つのは何故だろう。 不意に零れた生理現象に足を止めた俺は、鼻の下を擦りながらなんとなしに縁側から遠くの空を見上げた。 どこまでも続くくすんだ空からは冷たい雪が静かに舞っている。 もうじき日が暮れる。屯所の庭木にうっすらと積もり始めているそれは、きっと溶けることなく朝を迎えるのだろう。 寒いし目立つし動きにくい、毎年の事とはいえ冬は憂鬱だ。 早よあったかなって欲しいわぁ。 「ちょっと良いかい、山崎さん」 羽織の袖に手を引っ込めて再び歩き出したところで、今度は人の声に呼び止められた。 振り返るとにやけた男が三人。 一本差しに剣の腕はほぼ我流、だががたいだけは矢鱈と良い、所謂三下な連中。 最近よく目にしていたその顔には嫌と言う程見覚えがある。 一郎、次郎、三郎(仮名)や。 「なんやろ?」 「いやぁちょいと聞きたいことがあってねぇ」 笑って返すと、その中でも一等下っぱだろう三郎が猫なで声で一歩近寄る。 あーやっぱ俺こいつ無理。 「うん?」 「面白い話があるんだが、お前さんもどうだい?」 おもろい話、なぁ。 「そーゆうんは好っきゃで」 にぃと悪戯っぽく笑ってみせると、安心したのかそいつは僅かに顔を緩ませ再び口を開いた。
/600ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2435人が本棚に入れています
本棚に追加