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雨音が、鼓膜を叩いている。ポツ、ポツと。
夕立が降りだしたのは少し前だが、その頃は未だ空もセピア調の色彩に染まっていたのだろう。赤橙色の雲が印象的だった。
しかし今は、雨も止み終わりに近づき、今日空からはもう陽の目を見る事は無いだろう。
少年はナイフを両手で握り締めていた。
「ハァ、ハァ」
呼吸は肩の上下に合うが、鼓動はそれを上回る様にどうしても合わない。
先程から降りだした雨はもう、しとしとと雨脚を弱めていた。
少年の握るナイフには血が着いている。決まっていた。少年の目の前で倒れた様に横たわっている少年の親友の物だ。
側には乱雑に投げ棄てられた折り畳み式の傘。それは嘗て親友の握っていた水色の傘だった筈だ。血の水玉など無かったのに。
だが、傘の水色と血の色のコントラストがそれが親友の血だと証拠付けてしまっている。親友の身体を覆い、服を染めている物と同じ色だった。
血と雨水が織り成すマーブル模様は、人が造り出した筈なのに、自然の一部に成り掛けている。
傷痕を中心に花開く"それ"は雨水に蹂躙され、今はもう、滲み掛けていた。
赤、朱、丹、緋、紅。
しかしその色はどの"アカ"でも無い色だった。
どうしてこうなった?
目の前で親友が刺された。背後から。犯人は影も残さず消え、顔も見ていないが、彼が刺されるその瞬間は誰よりも明確に記憶している。その後、倒れた彼の背中に刺さっていたナイフが今も彼を傷付けている、そんな気がして、ナイフを彼の背中から引き抜いた。
この時、少年には何故か達成感すらあった。このナイフにはそれだけ人の心を狂わせる程の魔性がある。自分がやった記憶は無い。
今も手の内にあるナイフを見る。凶器、或いは狂気だと思った。
血はほとんど消えかけていた。空から降る雨が流していっているのだ。彼の命の様に。
「ひィッッ!……」
慌ててナイフを服で包む。彼の命を守るかの様に。
ふと少年の目に入ったのは地面の傘だった。丁度、倒れた傘の内側に雨水を溜め、傾いている。血の水玉模様などもう、何処にも無かった。溜まった水に雨滴が落ち、跳ねる。水は傘の内側にだいぶ溜まっている。
しかし、そこで彼は見てしまう
歪みに歪んだ、犯人の顔を。
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