第一章 転校生は王道か

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部屋に戻ると「おかえりー」とリビングの方から聞こえた。転校生君か。 ただいま、と返事をし、ソファーに寝そべっている彼を見て俺は 「ちょっお前、何勝手に読んどんじゃああああああああああ」 絶叫した。 なぜなら、彼は、俺の、秘蔵の、  B L を 、 読んで、いたからだ。 ……って 「ギャアアアアアアアアアア」 そして再び絶叫。それは豊さんのお姉様から頂いたR指定のものだった。 それを奪い取ろうとするが、ひょいと躱される。 「長谷川くんってこういうの好きなんだ?」 転校生君は王道に似つかわしくない嫌味っぽい笑みと楽しげで落ち着いた口調で言った。 まずはそこにツッコむべき(てか、俺長谷部だし)だが今はそれどころじゃない。俺の趣味を知っている宏文や豊にも見せられないキワモノを、初対面で今日から同室になるコイツに見られてしまったのだ。 ……死にたい。 「あ、言っておくけど僕、こういうのには理解あるから安心して」 しかし俺の心中を知ってか知らずか、転校生君は告げた。……え? 「はい?ちょっとどういうことなの?転校生君は王道じゃなかと?てか理解あるって??は?まずは落ち着け」 「落ち着けってそれは僕のセリフだよ…とりあえず座ろうか?」 転校生君は苦笑しながらソファーの端に座る。俺はその横に腰を降ろした。 まずは僕から話そうか、そう言って転校生君は徐ろに眼鏡と鬘(あ、やっぱり)を外した。 その下はキューティクルの整った黒髪とエメラルドのような色をした眼。顔立ちは、王道転校生によくある外人顔、ではなく中世的で、なんとも色気のある、王道の《お》の字もない様だった。 「知ってると思うけど、これ鬘。あ、眼はカラコンね。僕純日本人だし。で、君ってやっぱり腐男子?」 「あ、ああ。」 「やっぱりね。今日茂みに隠れてたの君でしょ。」 さっき妙に引っ掛かっていたのはこういうことか、と納得した。俺は欠伸をする様が気怠そうに見えたところに引っ掛かっていたのだ。
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