995人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、それでもあんたから離れなかった。それはあんたを大切に思っていたからでしょ!だからこそ、最後まで手を出さなかった…」
悔しい、悔しいよ、湊くん。
こんなにも湊くんの優しさに包まれていたのに、何も分かってなかったなんて。
もしあたしが中学の頃の真子さんを知っていたら絶対教えてあげたのに…。
「大切だからこそ、ふざけた気持ちではできなかった。その想いが真子さんには分かる?」
「…何よ。湊のこと何も知らないくせに…」
「うん、知らない」
一瞬にして辺りが静まり返った。
ここにいる全員からの視線を一身に感じる。
悔しいけど、真子さんの言う通りあたしは真子さんの知るような湊くんの"過去"を知らない。
でも、それでもあたしは湊くんのことを分かろうとしてる。
「確かにあたしは真子さんの知るような"過去"の湊くんは知らない。でも、あたしは"今"の湊くんを知ってる」
「"今"…?」
「そう、"今"」
最初は何も知らなかった。
どんな人なのか、どんな顔をするのか…。
でも今は違うよ。
「いつも無意識だし喋らないけど、本当はすごく優しいの。何も言わないけどあたしや涼くんたちのことをいつも見てくれてる。誰よりも人の心を理解できて、誰よりも大切にできる。笑うことも怒ることも悲しむことも、全部あたしは見てきた!」
「………」
「何も知らないのは真子さんだよ。湊くんの本当の気持ちに気づかず、たくさん傷つけた」
湊くん……あたしはね、湊くんみたいに優しくないんだよ。
最初のコメントを投稿しよう!