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「あぁ、信じる」
「どうして…?なんで急に」
「あいつが信じたからだ」
みっくんの口から出たあいつという言葉。
それは誰もが分かる、おとちゃんのことだった。
「あの子が?乙葉ちゃんが信じたからって湊まで信じることないでしょ…?」
「あいつが信じたなら俺は信じたい。それに…」
一旦みっくんが言葉を切る。
次に何を言うのか、僕たちは静かに耳を傾けた。
「俺の知る千尋さんは絶対に仲間を裏切るような男じゃない」
「何よ、それ…」
「あの時の俺はお前の言葉だけを信じてた。千尋さんの話もちゃんと聞かないで」
みっくんがこんなにたくさん話すのはすっごく珍しいね。
僕ったらなんだか嬉しくなってきちゃったよ。
「湊の中で乙葉ちゃんはそんなに大きいの?簡単に今までの考えを変えてしまうくらい」
真子ちゃん、それはちょっと違うよ。
おとちゃんの存在はみっくんの心の中だけにあるんじゃない。
僕たちみんなの心に大きく存在してるんだ。
「何を言っても、もう無駄みたい」
突然人が変わったように真子ちゃんの声が変化する。
「あーあ、疲れちゃったな。こんな子を演じるのも大変。ま、湊は見事騙されてくれたけどね」
ガタンと立ち上がろうとした僕を止めたのは隣にいたあっちゃんだった。
冷静になれよ、とその瞳で言われているようだ。
あっちゃんのおかげで僕は冷静になれた。
あんな言い方、おかしいに決まってる。
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