春の港の風のような

3/18
前へ
/1172ページ
次へ
その出逢いは突然やって来た。 昼休みに1人になりたくて訪れた音楽室に彼はいた。 派手すぎないブラウン色のサラサラの髪を揺らせ、学ランの前を全開にさせた1人の少年。 初めて見たあたしが感じたことはたった1つ、綺麗ということだった。 表情1つ崩さず整った顔立ちであたしを見つめる彼にあたしはいつの間にか見とれていたんだ。 「先客がいたなんて驚いたな」 ”ほんわかしてて柔らかい”あたしでその少年に話しかける。 だけど彼は眉毛1つも動かさず、何も答えなかった。 その少年はあたしのことなんてまるで気にしてないように、グランドピアノのイスに座ってグランドピアノに突っ伏してしまう。 「名前、聞いてもいいかな」 静かなこの教室の中にあたしの声だけが響く。 名前なんてどうでもいいような気がするけど、なぜかあたしはすごく気になった。 彼は顔だけ起き上がらせポツリと呟く。 「…真島湊」 たった一言自分の名前を口にしたことで初めてあたしは彼の声を聞いた。 優しいようで安心するような声があたしの耳に流れてくる。 「真島くんか…」 そういえば友達が言ってたっけな。 同じ学校にめちゃくちゃ綺麗な顔をした男の子がいるって。 多分、それはこの少年のことだったんだ。 確かに誰が見ても綺麗だと思う顔をしてる。 「お前は?」 初めて真島くんからあたしに話しかけてくれた。 それがなんだか嬉しくてあたしは笑顔で答える。
/1172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

996人が本棚に入れています
本棚に追加