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あたしはそんな風に心配されることなんてないから。
「ねぇ、真島くん」
「なんだ」
「真島くんは”愛”ってなんなのか知ってる?」
どうしてそんなことを今真島くんに聞いてしまったのかは分からない。
勝手に口から零れてしまった言葉に真島くんは微かに混乱していた。
だけど、答えを聞きたかったのもまた事実。
みんなに愛される真島くんは”愛”がなんなのか知っているのかもしれない。
「俺自身のことはよく分からない。でも、俺の尊敬する人を見てると思うことがある」
「尊敬する人?」
「うん。その人には俺たちと同い年の彼女がいるんだけど、すごく大事にしてる。いつも彼女のことばっか考えてて心配してて、会ったらすごく幸せそうな顔をするんだ」
その話をする真島くんの表情もまたすごく穏やかだった。
その人のことが大切なんだと、ちゃんと伝わってくる。
「普段俺たちにはそんな顔しないのに。その子の前だけは見たことないくらい幸せそうな顔をするんだ。多分それが”愛”だろ。俺はそう思う。それを見てると俺もなんか嬉しいんだ」
そんな風に愛されててその子はすごく幸せだろうな。
愛を知らないあたしからすると、それがムカつくくらい羨ましい。
「真島くん自身のことは分からないの?」
「好きな女とかいないからな。でも、両親の愛は感じてる」
「……そっか」
たくさんの愛を知っているからこそ、真島くんはこんな風に優しく育ったんだろう。
「なんでそんなこと聞く?」
「……なんとなくだよ」
「お前は愛されたことないのか?」
その質問にあたしは答えられなかった。
真島くんに知られるのはなんとなく嫌だ。
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