春の港の風のような

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そう言って湊はそっとあたしたちに近づいてくる。 そっと腕を伸ばしてあたしの頬に触れる優しくて暖かい手。 あたしはそのまま湊の身体にギュッと抱き着いた。 「どうした」 「湊。あたしを愛してくれてる?」 「……」 「あたし、不安なの。湊は初めてあたしに愛を教えてくれた人だから、何が正しい愛なのか分からなくて。ただ愛されてる証拠がほしいの……」 正しい愛され方なんて分からない、正しい愛し方なんて尚更分からない。 だからこそ、知りたい。 「あたしを抱いてくれないの?湊」 「……」 「どうして?」 「そういうことは簡単にしちゃいけない」 不安になる、怖い、あたしはちゃんと愛されてる? 「湊ってよく分からない…」 「……」 「春の港の風のような人。温かくて柔らかい感じ。だけど、何を考えてるのかよく分からないよ」 「俺はお前の不安をなくしてあげたい。でも、今度の願いだけは叶えられない」 ハッキリと言い切った湊の言葉には全く迷いがなかった。 この日からあたしの人生は大きく変わることになる。 あたしはこの日から夜によく出歩くようになった。 多分あたしの性根は腐ってるんだと思う。
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