プロローグ

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俺が10歳の時、祖母の家がある田舎に遊びに行った時の事だ。 俺にとってはもう何回も行っているし、祖母とは正月、お盆などに会っているので慣れている。 しかし、そんな勝手知ったる祖母の家でも、一つだけ、一度も入ったことが無い場所があった。 庭の隅にひっそりと建つ、小さな蔵。そこは、基本的に放任主義の祖母が唯一、口を酸っぱくして「入っては駄目」と忠告していた場所だった。 俺も、そこまで言うからには何か理由があるのだろうと思い、入ろうとした事すら無かった。 しかし、ある夏。 今からしてみたら、例年よりかなり暑い夏だったと思う。まぁ子供の頃は、そんな事は気にもせずに遊んでいたが。 庭で一人壁にボールを蹴って遊んでいた。しかし、それだけでは退屈して、さして得意でもないリフティングを始めたのだが、やはりうまくいかない。 三回くらい失敗したところで少しいらついてボールを強く蹴っ飛ばしたのだが(昔の家にはよくある事だが、庭ばかりやたら広い家だったので、かなりの強さでボールを蹴っても道路に出てしまう様な事は無かった)、それが運の悪い事に例の蔵の窓ガラスを突き破って中に飛び込んでいってしまったのだ。 あの温厚な祖母がその時だけ表情を硬くして俺が入る事を拒んだ蔵だ。やはり祖母を呼んで取ってきてもらうべきかと思ったが、窓ガラスを割った事を叱られるかもしれないと思い、自分で取りに行った。 後から思えば、やはり祖母を呼ぶべきだったと思う。いや、呼ばなかった方が良かったのか?
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