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……いや、そんな事はこの際どうでもいい。話を戻そう。
俺は壊れかけた閂を外して、ゆっくりと蔵の中へ入っていった。すると、二つの影が、
「「…うちらに何か用でもあるん?」」
「!?」
人が、いるっ!?
「…おーい?」
「何で黙っとるん?」
一人一人しゃべってるよ…
「う、うん…えと、君たちは、一体?」
ようやく闇に目が慣れてきて、二人の姿がはっきりと見える様になった。
黒い和服(!?)によく映える白い肌。
おかっぱの髪。顔は面の様なもので隠れている。
細くて高い、澄んだ声。
ほんの少しの声の違いが無ければ見分ける事すら出来ないであろう。それ程そっくりで、生まれる時代を間違えた様な二人だった。
しかし、何よりも俺が異常に感じたのは、この二人が全くこっちを見もせずに、ずっと墨で絵を書いている事だった。
「その絵…なに?」
文字とも模様ともつかない何か。
それが何なのか俺には全くわからないのに、不思議と今にも動き出しそうな迫力を感じた。
「ん、これか?」
「これはな、うちらの心や。」
「…心?」
こんな複雑怪奇な絵が。
「そう、心。」
「うちらの、心。」
「「………一枚やろうか?」」
そして、二人は、面の向こうからこっちをじっ…と見て、言った。
「あぁ、忘れとった。」
「うちらの名前。」
右側が、
「うちの名前は菫。」
左側が、
「うちは絵筆。」
「まぁ、お前になら教えても良いやろ。どうせ使えないし。」
そう言った後、二人はもう一度、
「「ーーで、これは?」」
「どう?」
「いらない?」
………正直、不気味だった。
だが、それに勝る好奇心で、俺はそれを受け取ってしまったのだ…
「よし。」
「受け取った。」
「「よしよし。」」
………?
「何?俺がこれを受け取ったから何なの…?」
すると、二人は面の下でくすりと笑って(そんな気がした)、
「言ったやろ?」
「これはな、うちらの心や。」
「お前がこれを受け取った。」
「その意味がわかるか?」
わからない……
「あのな。つまり…」
「お前はうちらを受け入れた。」
「これで、うちらは、」
ーお前に、干渉できるー
次の瞬間、俺はこんな不気味なものを受け取った事を、死ぬ程、文字通り本当に死ぬ程後悔したのだった…
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