プロローグ

5/6
前へ
/24ページ
次へ
二人組の右側ー菫と言ったかーが、俺に向かって飛びかかって来たのだ。 俺は、めまぐるしく廻る思考の渦の中、一つ祖母に渡されたものの事を思い出していた… 『これは、妖を成仏させる為の札。下手に祓ったりするよりも、このお札で成仏させてやった方が、よっぽど楽に逝けるんだよー』 この時は何の事かわからなかったが、今考えてみると祖母はこうなる事がわかっていたのだろう。 俺の手は、頭で考えるよりも先に、動いていた… 菫の胸に貼られたお札が燃え上がると同時に、菫の身体が、霧散した… 徐々に薄れて行く光の粒を呆然と眺めながら、くずおれる絵筆。 ……やばい、お札がもう無い。 絵筆が俺に襲いかかって来たら…! すると、絵筆はこっちをキッ、と睨みつけて、猛然と俺に向かって走り出した。 そして、俺が死の覚悟を決めた時… 胸を絵筆に思いっきり殴られた。 「ぐおっ…!?」 「何でお前そないな危なげなモン持っとんのや!返せよ、菫を返せぇぇええぇえぇぇえ!」 「おい、ちょ…待っ…!」 「待てるか!もう良い、このまま喰ってやる!!」 「わざとじゃ無いんだよ!ウチのばあちゃんからあのお札貰って、妖が一番楽に逝ける奴なんだって!!」 そう言った瞬間、絵筆の動きがぴたりと止まる。 「まさか…菫、成仏出来たん?」 「え?あぁ、そう言ってた。」 それを聞いた絵筆は、さっきの勢いで面が取れてしまった事など気にも留めずに、 「そうか…なら、まだ良かった…」 と言って、俺を抱きしめたまま、わんわんと声を上げて泣いていた。 俺の目には、絵筆の整った顔立ちと鮮やかな眼の色が、焼き付いていた…
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加