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二人組の右側ー菫と言ったかーが、俺に向かって飛びかかって来たのだ。
俺は、めまぐるしく廻る思考の渦の中、一つ祖母に渡されたものの事を思い出していた…
『これは、妖を成仏させる為の札。下手に祓ったりするよりも、このお札で成仏させてやった方が、よっぽど楽に逝けるんだよー』
この時は何の事かわからなかったが、今考えてみると祖母はこうなる事がわかっていたのだろう。
俺の手は、頭で考えるよりも先に、動いていた…
菫の胸に貼られたお札が燃え上がると同時に、菫の身体が、霧散した…
徐々に薄れて行く光の粒を呆然と眺めながら、くずおれる絵筆。
……やばい、お札がもう無い。
絵筆が俺に襲いかかって来たら…!
すると、絵筆はこっちをキッ、と睨みつけて、猛然と俺に向かって走り出した。
そして、俺が死の覚悟を決めた時…
胸を絵筆に思いっきり殴られた。
「ぐおっ…!?」
「何でお前そないな危なげなモン持っとんのや!返せよ、菫を返せぇぇええぇえぇぇえ!」
「おい、ちょ…待っ…!」
「待てるか!もう良い、このまま喰ってやる!!」
「わざとじゃ無いんだよ!ウチのばあちゃんからあのお札貰って、妖が一番楽に逝ける奴なんだって!!」
そう言った瞬間、絵筆の動きがぴたりと止まる。
「まさか…菫、成仏出来たん?」
「え?あぁ、そう言ってた。」
それを聞いた絵筆は、さっきの勢いで面が取れてしまった事など気にも留めずに、
「そうか…なら、まだ良かった…」
と言って、俺を抱きしめたまま、わんわんと声を上げて泣いていた。
俺の目には、絵筆の整った顔立ちと鮮やかな眼の色が、焼き付いていた…
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