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「なるべく簡単にしたほうがいいと思って。それに高我君の顔立ちがもともと整っているからカツラだけで十分です!」
簡単にしたかったのはわかりますよ。でもこれならわざわざサリル先生をこんな所まで連れて来なくても、カツラを借りるだけで良かったんじゃ………。
「しかし、問題があるので御座います」
少し真剣な表情をしたミヤネさんの言葉に、俺とサリル先生は疑問を持った。鏡を見る限り完璧に女性だ。もしかして潜入するほうに問題があるのか?
「問題ですか?」
「なんだよ問題って?」
「簡単なことで御座います。セイラちゃんは可愛いらしく、女装したセイラ様とは誰も思わないでしょう。しかしカツラを被っただけで、面識があり、ましてや一緒に暮らしておられたお嬢様を騙せると思いますか?」
………言われてみれば、メイクもせずにただカツラを被っただけで燐火を騙せるとは思わないな。
1ヶ月以上燐火とは暮らして来たんだ。顔なら記憶に焼き付くほど見ている。忘れようとしても忘れられないくらいに。
「やっぱりメイクしたほうが」
「……いや、高我君。これで行きましょう!」
サリル先生は何か思いついたようで、メイク道具が入って鞄に手を入れて何かを探し始めた。その様子に俺とミヤネさんは鞄の中から何が出るのか気になって覗き込んだ。
「有りました!!」
「ぬぐっ!?」
「あれ?」
サリル先生が鞄の中から『有りました!!』と言って、何かを取り出すとき。満面の笑みを浮かべて、その何かを持った手を上に振り上げた。
そして勢いよく振り上げられた手の甲が、覗き込んでいた俺の顔面に直撃。鈍い音とともに痛みが走って、俺は馬車の床に倒れて顔を押さえて悶えた。
「セイラ様は何をやっているのですか?寝転んではメイド服が汚れてしまいます」
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