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「……………」
拳が俺の顔に迫ったとき、咄嗟に俺は拳を突き出した。師匠に鍛えられた俺の拳は骨を数本折ながら、人の左胸を貫いた。
そして胸に穴の空いた人は倒れ、俺の手からねっとりとした赤い鮮血が滴る。
倒れて動かなくなった人を見て、俺が殺したということを実感した。その事実に対する罪悪感とともに俺は、心の奥底から快感が湧き上がる。
「良くやってくれた!安心してくれたまえ、このことワタシ達だけの秘密。他に知るものはいない!良かったら明日、連絡してくれない?これを渡しておくから」
「……………」
このとき俺は気づくべきだった。メモを渡して歩いて行く女性の口元が緩んでいることに、倒れた人と血の付着した手を見ながら立ち尽くす自身が、微笑んでいることに。
そして隠れて見ていた、もう一人の存在に。
翌日、俺は学校を休んだ。昨日の出来事が目に焼き付いていたのもあったが、俺はメモに書かれた番号に連絡した。
すると知らない女性が出て、待ち合わせ場所と時間を指定された。その場所に行くと一台の白い車が止まっていて、窓が開くと昨日の女性が手招きをしていた。
「来た、乗ってくれない?」
何も言わず車に乗り込むと目隠しをさせられた。俺は無言のまま指示に従い、女性の声だけが聞こえる。
「ワタシは数無 丸名(カズナシ マルナ)、数無さんとよろしく!まだ君には場所を知られるわけにはいかないだから、目隠しをさせてもらったよ」
「別にいいですよ」
「やけに冷静だな」
「人を殺しましたから」
「あれは人ではない。向こうでまた詳しく説明はするが、ワタシ達は〔クガ〕と呼んでいる。あと、アナタが止めなければ、あれは苦しみながら停止しただけだ。アナタは解放してあげたんだ、正しい選択だったんだよ」
この人は罪悪感を緩めようと、こんなことを言ってるんだろうな。昨日のが人じゃなく、クガか。くだらないな。
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