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「飛鳥…飛鳥!!」
降りしきる雨の中、冷たくなった彼女の身体を抱き抱えて、華月は必死に叫んだ。
容赦なく叩きつける雨音が、そんな声を虚しく消し去って行く―…
彼女を助けてください
華月は泣き叫びながら何度も天を仰ぎ願った。
必死な華月の様子を嘲笑うかのように雨脚は激しさを増し、彼女の唇から色を奪い、彼女の体温をどんどんと下げて行く。
華月には、ただ彼女を抱き締めてその名を呼ぶことしか出来なかった。
「か、げ…」
彼に何かを伝えようと、彼女は必死に唇を動かす。
「もういい…もういいよ…」
華月は涙を流しながら抱き締める腕に力を込める。冷たくなっていく彼女を少しでも温めようと、彼女の頭を自分の胸に押し付ける。
彼女の弱々しい鼓動が静かに止んで、柔らかな笑顔のまま彼女は瞳を閉じた。
それは「死」というにはあまりにも静かで、腕の中の彼女はまるで眠っているようだった。なのに、華月はもう二度と彼女が目を覚ますことはないとわかっていた。
「…愛してる」
ずっと言いたかった言葉。ずっと言えずにいた言葉。
初めて唇から外に出してやれたのに、もう彼女には届かない。
その日、少年は彼の一番大切な人と、一番大切なものを失ってしまった―…
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