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オルガもレイモンドに倣って取り分け皿にショートケーキを乗せ、フォークに刺したケーキを今まさに頬張ろうとしたその時。
「うぐぁああああっ、ひぐぁ……っ!」
断末魔のような悲鳴が起こった。
その声に場に居合わせた配膳嬢達が血相を変えて声の発生源へと駆けていく。
「えっ、えっええ?」
何事が起きたのかとレイモンドの方へ視線を投げてみるも、レイモンドは全く動じる素振りも見せずに備え付けのナフキンで優雅に口元を拭っていた。
騒然とした空気の中、居ても立ってもいられずにオルガが椅子から立ち上がると、レイモンドはそれを手で制した。
「座りたまえ、……なんてことはない。
大方、厨房の毒味役が当たりを引いた――そんなところだろう」
「ど、毒って……!」
淡々と淀むことなく口に出したレイモンドとは対照的にオルガは青ざめ、ケーキを刺したフォークを床に落としてしまった。
「貴族というものはいつの時代も平民に憎まれるものだ。私のような謀略を生業とする者は特に人から恨みを買いやすい」
レイモンドは床に屈みこみ、オルガが落としたフォークを拾い上げた。
「あっ、そんなこと……!
レイモンド様がわざわざなさることでは――!」
すぐに厨房からバタバタと慌ただしく数人の使用人が真っ青になりながらレイモンドの元へ駆け込んできた。
「レイモンド様、申し訳ありませんっ!
私めども、すぐにでも事の真相解明に――」
「その話は向こうでゆっくりと聞くとしよう。
オルガ、もうこんなことでフォーク落としたりなどしないように」
「あ、……はい」
レイモンドからフォークを受け取ったオルガはぽつんと立ち尽くしたまま、数名の使用人と去っていくレイモンドの後ろ姿を眺めていた。
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