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歓迎会となるはずだった大広間に主はない。
残されたオルガはぽつんと所在なく椅子に腰掛けながら、新しいフォークを手にケーキを頬張り、紅茶を啜った。
優雅になるはずだったひとときは、実に気まずい雰囲気に包まれた。
(そういえば……メイド長はどこに行ったんだろう?)
「オルガ君」
「うわわっ」
計らずしも考え事をしていたオルガの心音が跳ね上がる。
「もうっ、これくらいのことでいちいち驚いてはいられないわよ!」
背後から現れたアナスタシアは呆れ気味に肩を竦め、オルガのすぐ前へとやってきた。
(…………これくらいのこと)
先程レイモンドからも同様のことを言われたことを思い出し、オルガの胸は痛んだ。
「それより聞いた? レイモンド様に毒を盛ろうとした不貞の輩、結局誰だか分からなかったそうよ」
「えっ、そうなんですか? じゃあ、レイモンド様を狙った犯人はまだこの城の中にいるかもしれないってことですよね?」
「…………そのことなんだけど」
アナスタシアは周囲の人の気配を探った後、言いにくそうにオルガの耳に顔を近付けた。
「厨房に出入りした使用人全員を処刑する――!?」
「こらっ、シーッ! 声が大きいわよ」
オルガは頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。嘘だと思いたかった。
「あのレイモンド様が……? 嘘でしょう?」
「あなたはレイモンド様を知らなすぎるのよ……猜疑心の塊のようなあの方に疑われるような隙を見せてはダメ」
「あっ、……はい。肝に銘じておきます」
生返事になってしまったが、アナスタシアは特に意に介していない様子で、そのまま大広間から出ていった。
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