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【Ⅰ】僕をお城へ連れてって
――魔界。
紅色の蒼穹がどこまでも限りなく広がり、絶望の象徴とも呼ばれる血海が水平線に沿ってなだらかな曲線を描いている。
朱色の月がぽっかりと浮かび上がる宵の頃、一人の少年が足を引きずるようにして大地を踏みしめていた。
継ぎ接ぎだらけの煤で汚れた衣服を身に纏い、色艶が失われた紺色の乱れた短髪を左右に振りながら――軋んだ音を立てるキャスター付きのキャリーケースを杖がわりにして。
(まずいなぁ、今何時だろう。
約束の時間までに着けるかな……)
彼の名前は、オルガ。
つい先日、父母を二人揃って戦争で亡くしたばかり、ホヤホヤの孤児。
つい先日まで遠足でも行くノリで、高らかと「ヴォルド様万歳!」などと興奮気味に話していた二人の最期は神風特攻隊よろしく、無惨な爆死だったと聞かされた。
涙よりも早く、少年の心を拐ったのは、「この先どうやって生きていこう?」だった。
平民の中でも特に貧しい階層のオルガ、ましてや齢にして十ほどの子供に働き口などコネクションでもない限りは都合よく見付かるはずもないだろう。
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