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服に袖を通したオルガは、股の間をすり抜ける風通しのよさにむず痒さを感じながらラバトリールームを出た。
「あら、よくお似合いですわね」
鈴を転がしたような澄んだ声色のアナスタシアの声に、盛大な溜め息を量産したオルガは、諦め混じりに「ありがとうございます」とだけ言った。
識別のためか、それぞれの扉ひとつひとつには様々な大アルカナのタペストリーが掛けられている。
アナスタシアは当たり前のように大理石の石畳を早々と練り歩く。急かされているような気分に毛穴が総立ち、不安が沸き上がりは積もっていく。
そして彼女はある一室の前で足を止めた。
『魔術師』の正位置。
そんなタペストリーの下で彼女は深呼吸を一つつき、扉板を二回叩いた。
「レイモンド様、アナスタシアでございます。新しくお膝元に置かせていただく小姓を連れて参りました」
「ご苦労、――入れ」
扉越しに聞こえてきた声色は男性とも女性とも判断しがたい中性的な声色。
威圧的な言葉には温かみを感じる隙すらなかったが、どことなく惹き付けられてしまう、呑まれてしまう……そんな声色だった。
「さあ、入りますわよ」
アナスタシアの声に導かれるようにして、オルガは彼女の後に続いて入室した。
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