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漆黒色の細めの髪を後頭部で束ね、視線と鼻先までの情報を遮断する仮面が部屋の光源である燭台からの光でぎらりと光る。
現在は夜もたけなわの頃合、これは恐らくは寝間着だろう。
服装が上等な純白のゆったりとしたブラウスに、同じ生地でのスリムパンツ――身体のラインがくっきりと現れるその服は、恐らく彼のような美しい肢体の持ち主でなければ見るにも耐えないことだろう。
「顔を上げたまえ、オルガ君」
次に掛けられた声色は意外にも刺々しさのない、寧ろ好意的とさえ思える声色だったのでオルガはほっと息をついた。
「はい……、ありがとうございます。
僕はオルガといいます。
ケロベロス領の貧民街にいましたが、両親を戦争で亡くしまして途方に暮れていたんです。
なぜかは知りませんが、そこを歩いていたらライデュース城の募集のチラシを拾いました。
それで……」
「ああ、それは分かっている。
君を呼びつけたのには別の理由があってね。
君はまだ何か私に黙っていることがあるだろう?
私はケロベロスの豚とは違う。
遠慮はいらない、さあ」
(……………………???)
オルガは城主が言っていることがまるっきり理解できなかった。
試しに顎に指先を充ててあさっての方向に目線を飛ばして思念の糸を辿ってみるが、やはり何も浮かんでこない。
場を静寂が包む。
分からない以上どう答えたらいいのかあぐねいている姿を見るに見かねたのだろう。
アナスタシアが二人の中間に立った。
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