空から降ってきた災難

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一飯どころではないだろう、とウルフは言いたかったが、口に出すことはなかった。言ってしまったら、また殴られて投げ飛ばされそうだ、とウルフは危険を感じ、それを回避するために口に出しはしなかった。 雨が酷くなってきた。窓に激しく打ち付けられる雨粒の数から、どんどん強くなってきていることが分かった。雨の音が酒場の中まで聞こえてきて、豪雨の一歩手前のようだ、とウルフは考えた。 カロットは首飾りを弾き飛ばした後、席を立ちあがり外に出ていこうとした。ウルフは慌てて席を立ち、彼を止めようと彼の肩を掴んだ。 「おい!今から外に出るのか?やめといた方がいいぞ」 「何故だ?」 「外は雨降ってるし、しかもどんどん強くなってるし…。雨やんでからの方がいいんじゃないのか?」 カロットは、端整な造りの顔の眉間に皺を寄せて、顎に右手を添えて考えているような素振りを見せた。 「…そうだな。そうしよう。暫くはここで雨宿りでもさせてもらうか」 カロットは踵を返すと、先程まで座っていた席まで戻り、再び座った。彼は考え直してくれたのだろう。足の長さを見せつけるかのように足を組んでいる。ウルフもそれを見て、同じように席に戻った。 雨は一向に止まなかった。酒場にいる輩共も、大雨の中を走ってずぶ濡れになり風邪を引くリスクを自ら高めるよりは、雨が止んで足元以外を注意することなく家に帰りたいのだろう。追加の麦酒やつまみを頼むと、再び彼らの周りは賑やかな雰囲気で包まれた。 先程から、ウルフには気になっていたことがあった。それは所詮ただの好奇心からくるものだ。しかし、ウルフは己の好奇心には忠実な男だ。ずっと太陽を隠す雨雲を睨みつけているカロットに、ウルフは思い切って話しかけた。 「なぁ、そういえば、何で王都に行くんだ?」 「答える必要はないだろう」 「いいじゃないか別に。観光か?仕事か?もしくは、騎士登用試験でも受けるのか?」 ウルフが王都に行く目的の解答の候補をいくつか挙げた時、カロットの視線が黒い雲から外された。ウルフが適当に挙げたもののどれかが当たったのだろうか。しかし、当たったわけではなかった。何せ、カロットは何処か考え込むような顔をしていたからだ。
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