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「騎士登用試験?何だそれは」
「…し、知らないのかよ。それに受かると、王城の騎士になれるんだ」
「つまり、それは受かれば城の中に入れるのか?」
「あぁ、そうだけど」
ウルフがそう肯定すると、カロットは悪どい笑顔を浮かべた。それは見た目のよい男がするような輝く笑顔ではなかった。
カロットの、口端を吊り上げて唇で弧を描き、少し開いた唇から覗く野獣そのものだとしか思えない八重歯が、そして狂気と興味が混ざり不協和音を奏でるであろう光を宿す暗く黒い瞳がまるで、子供の憧れの心をかっさらっていく英雄と対峙する悪役の頭領のようだった。
ウルフは確信した。この男は危険だと。危険だというのは、精神が病んだ気違い人という意味ではない。彼からは、何か恐ろしいものを呼び寄せるような気を感じた。恐らく、常人ならば浮かべないような笑顔を見て、ウルフは本能的に危険だと察知でもしたのだろうか。
「そうかそうか。…くくっ、楽しみになってきたな」
「な、何がだよ」
「恐らく、騎士登用試験とやらに受かり騎士になり、うまくいけば現国王の御膝元までいけるのではないか?だとしたら、受けざるを得ないだろう。その方がこちらも楽だ」
一体どうして現国王の勇者に近づきたいのか。そして何が楽だというのか。ウルフは危険だけではなく不可解な言葉を述べるカロットに少し警戒した。今警戒したところで、特に意味はないのだが。
これ以上はウルフは聞きたくなかった。恐らく、カロットもこれ以上は話すことはないだろう。少し喋りすぎてしまったと言わんばかりの何とも言えない微妙な表情で再び外を見つめていたのだから。
無言で黒く染まった雲が流れる空を見る男二人とは対極的に、麦酒の入ったグラスを打ち付けあう男達の間に流れる雰囲気はとても賑やかになっていった。
男達の低い笑い声でさえ一生懸命に空を見つめ続ける二人の男にとってはただの背景音楽でしかなかった。雨雲はどんどん広がり、到底止みそうにもない大雨となってしまっていた。
どのくらい経ったのだろうか。一向に止まない大雨が地面にぶつかる音が、より大きくなって酒場の中に入ってきた。誰かが、雨の降る外から酒場の中へと入ってきたのだ。
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