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入ってきたのは、低い身長に反比例するようにして長い横幅の男と、彼の従者のように荷物を持っている数人の男女、そして最初に入ってきた男とは正反対の、深くフードを被って顔を隠した、身長の高い細身の男だった。
「あぁー!!疲れたわい!!まさか大雨が来るとは思ってもいなかった!!…おい、誰か、拭くものを持ってこい!!」
ずぶ濡れのビール腹の男は、歩いた床を濡らしながら歩き、近くにあった椅子に座った。その時、椅子が軋んだ音がしたような気がしたのは気のせいではないだろう。
やがて、慌てた表情で酒場の女将がタオルを数枚持ってきた。どうやら、酒場に入ってきた一行の分を持って来たようだった。
「シェル、ラスク。荷物は無事だろうな?」
「濡れぬよう、布を何重にもして巻いておきました。濡れていることはないと思われます」
「こちらも同じく無事です、領主様」
小太りの男が名前を呼ぶと、二人の従者らしき男女が荷物を抱えながら答えた。どうやらこの男は領主らしい。道理で、豪華な装飾品ばかりを身にまとっているのだ、とウルフはふと思った。
領主はタオルを受け取ると、頭髪の薄い頭を熱心に拭き始めた。
二人の従者のシェルとラスクは、荷物をまるで壊れ物をあつかうかのようにそっとテーブルの上に置くと女将からタオルを受けとり、濡れた服が含んだ水分をタオルで吸い取ろうとした。
よくよく見てみれば、シェルとラスクと呼ばれた彼らは顔立ちが似ている気がする。恐らく、兄弟、もしくは双子といったように、血縁関係があるのかもしれない。
フードを深く被った男は軽く顔を拭きながらも、酒場の内装やそこにいる人々の顔を見渡した。先程まで賑やかだった男達は口をつぐみ、領主御一行から目を逸らしている。女将も、何処か気まずそうな表情をしていた。
「どうしたんですか、なんか何とも言えない顔をしてますけども」
ウルフはそっと席を立って女将のもとまで小走りで近づき、小声で尋ねた。女将は、一瞬口をつぐんだが、恐るおそると口を開いた。
「…あんた冒険者みたいな身なりのくせに何も知らないのかい?」
「俺は地平線の彼方までずっと田畑が続くようなど田舎で生まれ育ってきて、最近になって故郷を出て行った駆け出し冒険者っすよ。知ってるわけがないじゃないですか」
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