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素で何も知らないという無知な青年に女将は小さくため息をつくと、更に小さな声で説明をし始めた。
「いいかい。あの太った男はね、この町の領主様なんだ」
「道理で成金趣味のやつらがつけそうな装飾品ばっかを身に着けてるわけですね」
「で、あの横にいる背の高い男。アイツに目をつけられたら人生が終わったと思ってもいいよ」
「何でですか?」
「…アイツは少しでも領主様に逆らおうとするやつを見つけると、すぐさま殺すんだ。太陽が沈む前だとしても、人目が沢山あるところだとしても。…とにかく、どこでも殺すんだよ」
フードの男の目が小声で話し合う二人に向けられた。女将は小さな悲鳴をあげるとすぐさま調理場の奥へと消えて行ってしまった。それだけ、あの男が怖いのだろうか。
フードの男とウルフの目があった。が、しかし、すぐに視線はそらされてしまった。フードの男にとって、ウルフは目にも留める価値などないような存在なのかもしれない。
領主は、首周りをタオルで拭きながら、突如立ち上がり酒場全体に響くような大声を出した。
「忘れておったわ。ここに冒険者はおらぬか!!」
冒険者という言葉を聞いたウルフは、すぐさま手をあげ、領主に負けぬような大声で名乗り出た。
「はい、俺は冒険者です!!」
「見たことのない顔だな。シェル、ラスク、知っているか?」
「すみません、私知りません」
「僕も同じく、知りません」
「では、エイトはどうだ?」
「………」
シェルとラスクも首を振り、エイトと呼ばれたフードの男までもが首を振った。それもそうだろう、ウルフは駆け出しの冒険者なのだから。
「名前は何と言うのだ?」
「ウルフ…ウルフ・アルティアスです」
「聞いたことのない名前だな。大方まだ名の知られていない新人冒険者なのだろう。新人では仕事は頼めんなぁ」
領主は、どうやら冒険者に仕事を依頼しようとしているらしい。だが、それは新人には任せられないようなものらしい。一体どんな内容なのか、それを考える前にウルフは先に体を動かしてしまった。
「俺は確かにまだ駆け出しです。けれども、剣の腕ならそれなりはあります!!」
ウルフは腰に差してあった剣を鞘ごとベルトから抜き取り、使い込まれている証拠を見せびらかすかのように前に差し出した。
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