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その剣は、革が張られた柄の部分でさえ本来の色が落ちてしまったような古めかしさを感じさせるような色ではあったが、よく手入れをされているのだろうか、ボロボロと言う訳ではなかった。
領主は遠目でその剣を見つめると、側に立っていたエイトに何かを呟いた。エイトは、ウルフの正面まで歩き、懐から金貨を取り出した。
エイトの掌に握られた数枚の金貨。彼が金貨を強く握ると、鈍く眩しい光が溢れた。金貨の形が崩れ、別のものへと変化していく。光が収まる頃には、彼の掌の数枚の金貨は小振りなナイフへと変貌していた。
彼はそれを握り直すと、ウルフへと突きつけた。思いもがけない行動に、ウルフは身を硬直させた。
「ウルフとかと申したな。ほれ、エイトの攻撃に耐えてみろ。で、かすり傷でもいいから反撃してみろ。できたら、仕事を任せてやらんこともないぞ」
領主が言い放った直後に、エイトのナイフがウルフの首めがけて突き出された。手に握っていた剣を咄嗟に持ち上げ、ナイフの切っ先を逸らして何とかかわすことが出来た。
「あっぶないじゃねぇか!!殺す気か!!」
「…殺す気でこい」
小さく、ウルフにしか聞こえないような声でそう呟いたエイト。ウルフはすぐに後退すると、剣を鞘から抜かないまま構えた。それは単純に忘れていただけなのか、それとも人を傷つけたくないという彼なりの思い遣りだったのか。
少しの光すらも反射させて光る金色のナイフが、何度もウルフに突き出され、その度にウルフはナイフを剣ではじいた。正直、彼には反撃をする余裕すらなかった。防御の姿勢を少しでも崩してしまえば、すぐに金色のナイフがウルフの喉を突き刺してしまう、そう未来予知にも近い予想が出来たからだった。
「ほれほれ。早く反撃しないと終わらないぞ!!」
「…んなことできたら、先にやってるっての!!」
風呂上がりの親父のように、首にタオルを巻いた領主の呑気な一言に噛みつきながらも、ウルフは必死に相手の猛攻から逃げていた。
ウルフが後退すれば、ナイフの切っ先は前進する。そんなことを繰り返しているうちに、ウルフの背中は酒場の机にぶつかってしまった。勢いよくぶつかった背中は止まることなく、机共々派手に床に打ち付けられた。
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