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そして彼は、泉のように湧き出る唾を飲み干して、牛のとても大きなステーキや鶏の丸焼き、豚のまるまると太った豚足に、いつナイフとフォークを突き刺そうかとニヤニヤを通り越したニタニタした顔で、目の前の料理を見つめているのだ。
そんなことを考えているから周りに不注意になってしまうのだ。これでは人とぶつかっても仕方がない。
そんな時、突然、まだ人気の少ない町中を明るく照らしてくれる太陽を隠すように、黒点が生まれた。
実際にそれは、黒点ではなく、不思議な文字にそれらを囲むように描かれた円…と、俗にいう、魔方陣というものだった。
そこから、何かがまるで作られたかのように出てくる。
黒い魔方陣から出てきたものは、黒い何か。
やがて、それが人の形をしていることがわかった。黒い人間が魔方陣から完全に抜けた途端、魔方陣は直ぐに消えてしまった。
支えを失ってしまった人形のように、黒い人間はその場から落ちてしまった。地面に向かって。
…否。妄想の中で美味しい思いをしているウルフに向かって。
当然、空から人間が落ちてくるなどありえない。彼は自分の頭上に注意をすることなく、妄想の海にのまれていた。
「そこの下等生物!!そこから動くな!!」
突然、上空から聞こえた声。それは恐らく、いや、絶対に落ちてくる人間から発されたものだろう。何故なら、その場にはウルフとその落ちてくる人間以外はいないのだから。
ウルフは駆け出し冒険者ではあるが、大声を聞いて妄想の波から上がれぬ程の阿呆ではなかったようだ。ウルフが上空に振り向き、太陽の眩しさに目を瞑った時、彼の目の前に巨大な魔方陣が広がった。
アメジストを思わせるような深い紫色の光を発する魔方陣。それの中心部に黒い人間が落下してきた。
魔方陣は、恐ろしいほどの速さで落下してかた人間を守るためのクッションの役目を果たそうとした。しかし急速度で落下してきた人間を完璧に受け止めることは出来なかったようだ。伸びた魔方陣は、人間を受け止めていた中心部がやがて破れ、消えてしまった。
そして、人間はまたしても落ちてしまった。そう、ウルフに向かって。
「ぎゃあぁぁぁぁあああ!!」
寝起きの町中に男の絶叫が響いた。
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