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数十分後、ウルフは酒場にいた。
彼は今、実に不機嫌だった。
それこそ、とてつもなく高い標高の山の切り立った頂上から真っ逆さまに突き落とされ、地面にぶつかることなく海面にぶつかり、そのまま底も見えぬ海溝へと落ちていったように、先程までのテンションは見事に下がってしまっていた。
いきなり空から人間が降ってきて、自分をクッションにするように落ちてきた、というのも理由の一つだが、彼の初仕事の報酬として貰った金をほぼ全て消費してしまったことが、一番の理由だった。
何故金をほとんど使ってしまったのか。それは、ウルフの目の前で肉とパンを頬張る男が、どんどん料理を頼んでしまったからだ。先程の妄想では、自分が肉を頬張っているはずが、何故この男がそうしていて、自分は悲しくもスープをすすっていなければならないのか。
常人の4倍もの量を食べる男に酒場の人々の視線が集まり、ウルフは非常にいたたまれない気分にもなってしまった。
「食事を提供してくれたことに感謝しよう、下等生物その1」
「あんたが勝手に頼んだんだろうが…。てか下等生物その1って俺のことかよ」
目の前の男は、ウルフを下敷きにして気絶してしまったから、ウルフはその場から一番近い酒場に連れていった。
黒づくめの男を抱えながら走ったせいか、かなり息が切れていて、言葉も途切れ途切れだったのにも関わらず、酒場の女店主は上手く聞き取って「奥の部屋に寝かしておきな」と返してくれたのだ。
物わかりの早い女店主に心の中で感謝の言葉を述べながら、ウルフは男をなんとかベッドまで運んだのだ。
しばらくすると、ゆっくりとした動作で男が起き上がった。
大丈夫か、とか何故空から落ちて来たのか、等、聞きたいことが山ほどあってなかなか言葉を選べず、喋れなかったウルフを見るなり、男はこう言った。
「俺に何か飯を奢れ」
と。
いきなりの事で呆気にとられているウルフの襟首を男はがっしりと掴むと、引き摺るようにして部屋を出て行ってしまった。
男は物珍しげに酒場の内装を眺めながらも歩む速度を落とさないせいで、ウルフは今の体制を脱することができず、男が歩みを止めるまで引き摺られたままだった。
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