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どかん、とわざと大きな音を立てて椅子に座る男。
やっと立ち上がることができたウルフは、酒場のテーブル席に座ってメニューを眺めている男を見て、本気で食べる気なのだ、と理解した。
「中々メニューの量が豊富だな。悩んでしまうのだが」
「…あんたさ、腹、減ってんの?」
「うむ。結構な距離を移動してきたからな。当然、生き物ならば腹が空く」
結構な距離を移動してきた、という言葉に首をかしげつつも、もともとの性格が世話焼きなものであるウルフは、少しぐらい奢ってやってもいいか、と思ってしまった。
それが、こんな悲劇を招くとは思いもしなかっただろう。
ウルフが思いふけっている間に、テーブルに並べられた大皿は全て空になっていた。
空いた大皿の上に更に空いた大皿を重ねて…ということを何回も繰り返していたのだろうか。男の目の前には沢山の皿の塔が築かれていた。
あまりにもどんどんと料理を頼んでいく男を見かねて、ウルフは「今手に握っている金だけで足りるほどの量だけを頼んでほしい」と頼んだ。
こうやって制限をつければ金を半分ぐらい消費したところで終わるだろう、と思っていだが、それは間違いだった。男は、制限された金額ぎりぎりまで頼んでしまったのだ。
それにより、今回稼いだ金はほとんどがこの男の食費としてとんでしまう。それが、ウルフの機嫌を急降下させた。
男の前で項垂れ、哀愁を漂わせるウルフを見かねて、女店主は生野菜をスティック状に簡単に切ったサラダを持ってきた。
「はいよ、これは無料ね。ちゃんと野菜も食べるのよ」
「あー、ありがとうございます…」
女店主は、ウルフと黒づくめの男の2人分として、コップ状の皿に入れた野菜をそれぞれ持ってきてくれたのだ。
タダで食べさせてもらえることに感謝しつつ、ウルフはスティック状に切られた野菜に手を伸ばした。
「すまなかったな、こんなに奢らせてしまった。礼を言わなければなるまい」
「いいよ礼なんて。そういうの、言われる柄じゃないし」
「本当に感謝している、下等生物その1」
「あのな、俺は下等なんちゃらって名前じゃないんだ。ウルフって名前があんだよ」
男は出された野菜の一種の人参を咥えながらウルフの事をじろじろと眺め始めた。
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