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「お前のどこがウルフなんだか。名付けた親の真意を知りたいな」
「これから名前通りの男になるんだよ!!そんなこと言ってるあんたの名前はどうなんだ!!」
男は人参を咀嚼し嚥下すると、再び人参を咥え、問いに答えた。
「俺はカロットだ。カロット・シース」
「カロット…カロットって、もしかして」
ウルフは、男…カロットと人参を交互に見た。
黒い髪に瞳と虹彩の境がわからないほど何処までも黒い眼に、どこかの民族衣装のような格好をしたカロット。
髪と眼の色同様に黒いフード付きのコートを見ても、カロットと名乗られてもなんとも思わないが、彼は口に人参を咥えていたため、ウルフは何かに気づいてしまったようだ。
笑いそうな頬を抓りながら、ウルフは今思ったことを述べた。
「カロットってさ、もしかして、キャロット(人参)からきてんのか!?さっきからあんた、人参しか食ってないし!!」
ウルフはカロットと人参を交互に指差しながら大口を開いて自分なりの考えを述べた。…というよりは笑いながら叫ぶような形に近かったが。
「人参が好きだからキャロット、でもそのままだと可哀想だからカロットって名前になったのか!?」
「そ、そんな訳がないだろうが!!俺の名前には別の意味がある!!」
「人参咥えながら言われても説得力がないし!!げひゃひゃひゃひゃひゃ」
その後、人参を咥えた男によって冒険者風の男が宙を舞う、という事件が酒場で起こったらしい。
「下等生物、この国全体がわかるようなものはもってはいないか?」
「…地図なら持ってるから、それ見てくれ」
赤く腫れた右頬を抑えたまま、ウルフは自分の鞄に入っていた地図をガサツに取り出し、皿が全て片づけられた机の上に投げ出した。
投げ出された地図を、机から落とすことなく受け止めたカロットは、それをぱっと開いて、眺め始めた。
外を見ると、雲行きが怪しくなっていた。今朝方の晴れ晴れしい天気が嘘のようで、今にも雨が降りそうな鉛色の空だった。
「それと、もう一つ尋ねたいことがある」
「なんですか」
何故、自分は人を下敷きにし、大金を使わせ、挙句の果てに投げ飛ばした相手にこんなにもいろいろとやっているのか。そうウルフは考え始めた。恐らく、ウルフの元々の性格が世話焼きなもののため、見ず知らずの相手に対してもこう親切にしているのであろう。
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