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その奥に、木枠の硝子ショーケースがあり、高級そうな万年筆や、ペン立てペンケースなどか並べられていた。
ショーケースの奥の丸椅子に一人の老人が新聞を読みながら座っていた。
私に気がついたのか、新聞を閉じてこちらを品定めするように眼鏡越しに覗いている。
たぶん、ここの店主であろう。
「スミマセン…万年筆のインクを買いにきたんですが…」
私は恐る恐る店主に向かって声をかけた。
「珍しい…こんな若い客が来たのは初めてじゃね~
お嬢さん、もしかして誰かに頼まれたお使いかい?」
珍しいものでも見るように私を上目遣いで見つめていた。
私は何と言おうか言いあぐねたが万年筆を見せたほうが早いと思い、鞄の中から赤い万年筆を店主に見せた。
「この万年筆のなんですが…」
老人はその万年筆を見て、一瞬恐怖に震えた。
私はその時店主の顔を見てなかったから気付かなかった。
老人は黙って奥の引き出しからインクの箱を取り出した。
「780円。バラで残っているのは差し上げるよお嬢さん。
もう…このタイプのインクは出回らないだろうから。」
そう言いながら、小さい紙袋に入れてくれた。
私はそれを受けとると、代金を支払って店を出た。
老人は去っていく私をみながら心の中で呟いた。
あの赤い万年筆はいくら人間の生き血を吸ったら気が済むんだ…
お嬢さん…もうこの赤い万年筆にミイラれたのかい?
気の毒に…インクが切れたらお嬢さんの命は…
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