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この日、繁華街をすれ違う者達は世間でところの勝ち組なんだろうと俺は思う。
仲睦まじく腕を組んで歩く恋人。
プレゼントの包みを抱えながら父親の肩車に喜ぶ親子連れ。
サンタコスチュームであくせくと人の波を掻き分けるようにして大声を張り上げる飲食店の客寄せ。
そのどれもが“ 幸せ ”を象徴するものに他ならない。
街に降り注ぐイルミネーションの奇跡はどうせ今夜限りのものだ。
彼女もいなければ、プレゼントをくれる両親さえいない俺からしてみればこのクリスマスイブほど煩わしいものはない。
細々とした店が立ち並ぶ路地を一本抜けると、壮大なイルミネーションのアーチが目に飛び込んできた。
駅ビルと超大手百貨店を結ぶスクランブル交差点の向かい側にあるそれは、反対側を歩く俺の目にもひときわ眩く映り込む。
電飾など、所詮は人工物。
点灯していない昼間だとごつごつした異物にしか見えないのだが、人恋淋しくなる冬夜ともなれば、見る者を立ち止まらせ、心を魅了してやまない芸術品と化す。
前日降った雪の影響か、所々に浮かばせた汚れを含んだ氷の塊が道の端々に見受けられ、時折現れる凍った路面や水溜まりを前にして、顔を下につけながらようやく交差点前に辿り着いた。
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