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寒い寒い、と思いながら両手に息を吹き掛け、騙し騙しの暖を取る俺の視界に、一人の女性の姿が飛び込んできた。
スクランブル交差点を挟んだ真向かい。
時を告げる時計台の柱に凭れるようにして立つ、真っ白なダッフルコートに身を包む女性――
上向きの視線、頬をうっすらピンク色に染めながら、唇の端を嬉しそうに綻ばせている。
時折、手首を寄せては時を確認しながら白い吐息を夜空に舞い上がらせていく。
ああ、こいつは“ 彼氏待ち ”だな。
端から見てもすぐに分かった。
そのタイミングで信号が青に変わる。
待ってましたとばかりに、大勢の人の群れがスクランブル交差点の人の群れを掻き分けるようにして泳ぐ。
その時の俺は、なぜだかよく分からない――なぜかその場を見送り、立ち尽くした。
白いダッフルコートの子から目が離せなかった。
信号がチカチカと点滅し始める。
そのタイミングで俺のすぐ後ろを駆け抜ける風があった。
ふと、向かいに視線を戻した俺はあの子が顔を上げ、凭れた身体を起こしてこちらへと身体を向けたことに気付く。
表情が一転して頬染める恋する表情へと変身した。
あー、彼氏ね。
急に興を削がれたように褪めた目に変わる俺のすぐ前で――――
「――――えっ!?」
突然、停車中の車が急発進した。
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