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危ない――――!
俺の心臓が大きく鼓動を跳ね上げる。
真向かいに立つ彼女の表情が絶望色に染まる。
クリスマスムードを一瞬にして吹き飛ばす悪夢の効果音が辺り一面に響き渡った。
「きゃぁあああああああっ!」
絹を引き裂くような幾つもの叫び声。
道行く者達の足がすべて時を止め、今まさにその場で起こった惨劇へと意識を向ける。
その騒然とした場の中央に
――彼女がいた。
スクランブル交差点から数メートル離れた路上に横たわるぴくりとも動かない人の身体。
夥しい量の鮮血が道路を赤に染め上げていた。
「い、いやっいや、いや、いやっ……いやぁああああっ!
うそ、うそ、嘘だよ、ねえ、嘘だよね!」
駆け寄った彼女の白のダッフルコートはたちまち赤で埋められていく。
恐る恐るに抱き起こす手に、べとりと絶望が付着する。
「いやぁああああああああああっ!」
絶望にうちしがれ、大粒の涙を、感泣を轟かせる彼女の前で――
居合わせた者達の誰かが呼んだであろう警察と救急車が到着する。
すぐさま心肺蘇生が行われると思いきや、到着した隊員は首を左右に振り、時を確認した後、静かに彼の身体を担架へと滑らせた。
騒然とした中、殺到する野次馬達は平然とスマフォを構え、無機質な音を響かせ、 彼女を、現場を取り囲んでいた。
隊員は放心状態の彼女を同時に乗せ、走り去った――
俺はただただ呆然と立ち尽くし、悪夢のようなクリスマスイブの夜を呪いながら帰宅した。
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