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繁華街の大通り、駅ビルと百貨店ビルがひしめく通りへ足を踏み入れた。
その場所は白地の横断幕が幾重にも交差するスクランブル交差点。
上空からちらちらと雪が舞っては落ち、道路に雪化粧を施していく。
さすがにクリスマスイブの夜間、途切れない人通りによって踏み均された路面の雪はべしゃべしゃのシャーベットに成り下がり、道路脇の排水溝へと溜まっていく。
交差点の信号は、赤。
その時ふと俺は、一年前に目撃した凄惨な事件のことを脳裏に掠めた。
時計台の下。
白いダッフルコートに身を包み、夜闇に浮かぶ吐息を見上げながら待っている女の子。
信号が変わる寸前に現れた交差点の向かいからやってくる彼氏。
突然急発進する車――
大音響で鳴り響くブレーキ音。
衝突音。希望が絶望に染まる瞬間。
吹き飛ぶ身体、地面に拡がる赤い絨毯。
「………や、…ゆ、……侑哉ってば」
「あっ、……ごめん、ついボーッとしてた」
「もうっ、ひどいなあ。
それでね、私のお気に入りの――――」
ついついトリップした思考から覚醒し、スクランブル交差点の真向かいに目を移した――その時。
俺は何かに取り憑かれたようにその場から動けなくなった。
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