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あの子がいた。
一目であの子だと気付いた。
去年と同じ白のダッフルコート。
去年と同じ場所で。
――ただ、
去年とは明らかに違っていた。
俯きかげんにされる瞳には夢も希望も映していなかった。
死人のような蒼白い顔は今にも倒れてしまいそうな程に儚げに見えた。
なぜ、なぜ彼女はここにいるんだろう。
人と待ち合わせだろうか――いや、待ち合わせ場所ならもっと他にある。
信号が変わる。
人の群れが波となって白い横断歩道のスクランブルの海を縦横無尽に渡っていく。
あの子はそれを無感動なまなこで、ただ、じっと、じっと見つめている。
「ねぇ、ちょっと、ねえ!
侑哉、侑哉ってば!」
「――――あ、ごめん」
袖を引っ張る彼女に気付いて、我に返った俺は慌ててスクランブルの海に身を投じる。
信号が点滅し始める。
「あっ、やば、早く渡ろう侑哉」
小走りに駆け、ギリギリ間に合う形で俺達は何とか長いスクランブルを渡り終えた。
ふと、渡り終えた道の端に花束やジュース、お菓子などがいくつも置かれていることに気付く。
「うわぁ、これ、もしかして去年の事故のやつじゃない?
悲惨な事故だったってマスコミが大々的に取り上げてた……」
「知ってるのか?」
「知ってるわよ、ひっっどい話だもの。
ネットで炎上までしたんだから」
俺達の立ち位置から――時計台の下に凭れる彼女までの距離は僅かながら二、三メートル程。
そこで初めて俺は、彼女の容姿をまじまじと見た。
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