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「鈴、ありがとう……すこし、落ち着いた」
涙声でそう合図をした麗奈は僕の胸からゆっくりと身体を起こした。
悲しみに染まった顔はそのままに、濡れる瞼に涙の跡が残る。
まだ抱き締めておきたい、この胸に留まらせて、いっそのこと飼っておくことができたのなら――勿論、そんなの欲望など麗奈に面と向かって言えることなんかできない。
それは、軽蔑されるのが怖いからだろうと自分でも分かってるんだ。
麗奈に軽蔑され、僕の世界から麗奈が消えてしまうことが何よりも怖いから。
――だから。
「それはよかった」
僕は麗奈の手を放し、今できるめいっぱいの笑顔で彼女に応えた。
僕は彼女のそばにいて、一番近くにいて、感情を共有することができれば……それで、いいんだ。
――けど、こういうことがある度に僕は思う。
麗奈が次に恋をする時、僕はまた自分を女にして麗奈の背中を押すことができるんだろうか。
泣きじゃくる彼女の悲しみに出逢っても、また感情を圧し殺してまで笑いかけることができるのか。
僕ならこんなことしない。
僕なら麗奈を悲しませるような真似は絶対にしない。
それなのに――。
「あーあ、鈴まで泣いちゃってどうするのよ……鈴は笑顔でいてよ。
鈴は私のそばにずっと、ずっと一緒にいてくれるよね?」
桜色のハンカチが添えられた麗奈の手が僕の瞼にそうっと触れた。
そうだな……ははは。
心を圧し殺せば、ずっと君のそばにいられるな。
「そうだな、僕はずっと麗奈のそばにいるよ。麗奈が好きだから」
一瞬見開かれた瞳がふわりと揺れる。
「鈴、ありがとう!」
その笑顔は残酷なんだよ、麗奈。
僕は本気なんだ、本気で君のことが――。
女同士の恋愛は空しい。
気付いて貰えることも、解放されることもないのだから――。
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