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「あのさ…好きな子いるんだよね。」
正義は、何の前触れもなく、夕夏に言った。
夕夏は、自分の体が固まってしまったと感じた。大丈夫、驚きでカバーしろ、と自分に言い聞かせた。
「マジか…」
「うん、マジ。」
正義はストローをくわえながら答えた。
「いや、いきなりすぎてびっくりした…」
「うん、お前ぐらいしか話せる奴いないからな」
「は?私ちらっと聞いたことあるよ。あんたの好きな人。」
「はぁ?人に話すのは初めてだっつの。あ、お前は人じゃねえか。」
内容はともかく、会話はいつもの調子の正義のおかげで、夕夏は心と頭を建て直せそうだと思った。
「そうねー。私を神と思いなさい。さすれば、お主の願いはたちまち叶うであ…」
「断る!悪魔め」
部活帰りの行きつけファーストフード店で、二人はいつもとは違う会話を始めていた。
ファーストフード店といっても、全国チェーン店ではなく、さびれたスーパー内のフードコートである。
夕方ならば、同じ制服の時間をもて余したグループ数組いたりもするが、この時間になると、コート内はおろか、スーパー自体がお帰りモードだ。
夕夏は念のため辺りを確認してから切り出した。
「河野先輩じゃないの?」
夕夏は久々にこの人の名前を音にしたと気付いた。
「あぁ…遼から聞いたんだろ。あいつっ…」
「ん?」
「…世間体は河野先輩。」
「何それ?」
「俺、ずっと人好きになった事なんかなかったよ。まぁ、でもやる事やりたいってゆう少年の本能はあるわけよ。」
「はぁ…少年の本能ですか…男の欲望でしょが。」
「そうともいうな。」
私にそれを話すお前のほうが悪魔だと、正義に言ってやりたかったが、夕夏は話を進めた。
「じゃあ初恋じゃんね。」
「………」
正義は椅子に大きくもたれ、天井を見つめた。
「ああ…そうだわ。毎日苦しすぎ」
立て直せかけていた夕夏の心と頭は、再び揺らぎ始めた。
おいおいまだ名前も聞いてないのに…頑張れ私。
夕夏は、身を乗り出し肩肘ついて話を聞く事にした。型がないと崩れてしまいそうで。。
「で、誰?て聞けばいい?」
「あのさぁ、好きな人が泣いてたらどうするのが正解?」
「泣かせたんだ。」
「だから泣いてたんだって。1人公園のベンチで。」
夕夏は、いつもより目線を合わせてこない正義に感謝した。そして聞きたくない事を聞いた。
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