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「女バスの人?」
「いや、ちがう。」
「じゃあクラス?」
「東高。」
まったく今日のこいつは次々と私の心に攻めてくる。
「東高?」
「多分ね。」
「多分って…」
「話したことないし。」
「えっ、ないの?」
「すれ違ったことしかない。あ、尾けたことはあるけど。」
「うわっ、ストーキングですか。」
「初恋なめんなよ。」
夕夏は再び言葉を飲み込んだ。お前こそ初恋なめんなよ。
「東高かぁ。じゃあ何?一目惚れってやつ?あ、分かった電車か。」
夕夏と正義は、中学からの同級生で、ともに啓陽高校1年のバスケットボール部員。
夏休みに骨折してしまった正義は、2学期からは電車で学校に通っていた。
「いや、電車じゃないよ。自転車。大学病院の前通って並木道通ってく道…分かる?」
「うーん、何となく。」
夕夏は電車通学なので、いまいちピンとこない。
「ほら今もう朝練行ってないからさあ、普通の時間にその道通るようになったんだよね。線路沿い走ったほうが2分早いけど、足も折ってるし、のんびり走れるルート開拓したわけ。」
正義はいつもの姿勢で、もう氷で薄くなっているであろうオレンジジュースを、ちびちびストローで飲んでいた。
「したらさぁ…通るんだよ、その子。」
夕夏は、歯に力が入っているのを頬杖で隠しながら聞いていた。
正義も淡々と話そうとしているように、夕夏は感じた。
「可愛いの?やっぱり」
「一目惚れじゃないけどね。可愛いってか大人っぽいね。日に日に気になりだした。」
「そんで、その子が泣いてたわけ?」
「そう。家の近くの公園で。」
「家の近く?」
「うん…朝は無理でも、下校途中で逢えたら、声掛けようと思ってたんだけどさ、いざすれ違ってみたら一瞬だしさ、仕方ないから追いかけた。」
もうここまでくると、夕夏は物語を聞いてるんだと思うことにした。想いは後回しだ。
「あぁ、尾けたって、それね?」
「正確な場所は分からないけどね…大体この辺ってのは分かる。だからその辺いつも通ってる。」
「ふぅーん……なるほどのぅ。で、何だったっけ?」
「だから好きな人が泣いてたらどうするのが正解かと…」
「知るかぁ~!正解もなにも、君まだその問題解ける立場じゃないしょ。」
「うぃ~…」
正義は、ストローをギリギリ噛んで、ジュースのカップを持ったまま、体を左右に無意味に揺らし、おどけていた。
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