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夕夏はいつもの習慣で、後ろから2両目の車両に乗り込んだ。
夕夏は乗り込んでから、違う車両に乗ればよかったと悔やんだ。
この時間の電車は苦手。学生のテンションが車両に充満してるから。
このテンションは、学校の塀の中だけで許されるべきだと思う。
早朝の学生なら、どの子もキリッとしていて、目標を見据えたような目をしている…気がする。
それに比べて、今、目に映る子達は、みんな時間を無駄にしている…ような気がする。
私と同じ。。
兄ちゃんは、無駄な物なんてないんだよ、と言っていたけれど、それは、パン屋になる夢を叶えるために頑張ってる兄ちゃんだから、そう言えるんだ。
何もない自分、何もできない自分は、やっぱり今日も無駄に一日過ごすんだ。
無駄にテンションの高い友達と、無駄な芸能情報ではしゃぐんだ。
無駄な授業を受けて、無駄に体育館を何周もするんだろう。
「市井くん、何をボーッとしているのかね。」
B駅から乗ってきたクラスの沢崎那奈が、物理の先生を真似て、話しかけてきた。
「あ、おはよぅ。また似てきたんじゃない?」
「でしょ~!夕夏のおかげだよ。」
「もう、早く物理なくなんないかな。」
「だめだめ~。1組の子に聞いたけど、守山が注意するとこ見たことないってさ。守山があんな注意するの、夕夏ぐらいしかいないんだから。」
「え~そうなの。キモいんだけど。」
「今日朝練は?」
「起きれなかったから休んだ。」
「いよいよ朝つらいもんねー。私、昨日見ちゃったよ。」
「いゃ~!聞きたくない。」
那奈が見たものは雪虫だ。
雪虫は、温度に弱い。人間の体温でも弱ってしまうらしい。
毎年、私の服に付いた雪虫たちは、初雪の憂鬱を、私の胸に残して息絶えていく。
二人は駅を降りた。
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