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「少しは落ち着いたらどうなんだ? 焦ったところで二人は出てこぬぞ」
「んなことは分かってる。これは、癖みたいだ」
『~みたい』と言う表現をするのは、ナナシが記憶を失っているからだ。
体が自然と反応するのは、記憶を失っていても体が覚えているからだと思われる。
「ふむ。王国に着くまでには直しておけよ。王国ではかなり失礼な行為だからな」
「善処するよ」
休憩を終えると、次の部屋へと移る。
二階は客室がとにかく多い。
大体、宿屋は二階に客室が集中する造りになっている。
どれも全く同じ部屋の配置で、頭がクラクラしてくる。
衣類も全て、腐っており、ボロボロ。
窓は板を打ち付けられ、開かないようになっている。
「くそっ! 見付からない!」
イラついたナナシは、近くのソファーを蹴り飛ばした。
勿論、僧侶のひ弱な足では蹴倒すことはできず、少し動いただけで終わった。
「物に当たるな! イラついている暇があったら探せ!」
「でもよぉ、このままだとどうなるのか分かんねぇんだぞ! 何でそんなに冷静でいられんだよ!」
「こんなときだからこそ、冷静でいるんだ! 特に探し物の場合は、頭に血が上っている状態ではなにかを見落とすぞ!」
「だぁぁぁもう! 俺はお前のそう言ったところが嫌いなんだよ! 何でもクールに決めやがって!」
「喚くな!!!」
「――――っ!」
ミュシルの怒声の前に、ナナシは黙った。
「我が冷静でいられるのは、冷静でいなければならないからだ。内心は焦りたい、憤りたい。だが、それで何かを見落とせば本末転倒だ! それくらい理解しろ!」
「……………………」
ミュシルの瞳は揺れていた。
ミュシルも、内心は不安で一杯なのだろう。
だが、それを表に出さないようにしている。
なのに――
「すまなかった」
素直に謝る。
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