二話

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「少しは落ち着いたらどうなんだ? 焦ったところで二人は出てこぬぞ」 「んなことは分かってる。これは、癖みたいだ」 『~みたい』と言う表現をするのは、ナナシが記憶を失っているからだ。 体が自然と反応するのは、記憶を失っていても体が覚えているからだと思われる。 「ふむ。王国に着くまでには直しておけよ。王国ではかなり失礼な行為だからな」 「善処するよ」 休憩を終えると、次の部屋へと移る。 二階は客室がとにかく多い。 大体、宿屋は二階に客室が集中する造りになっている。 どれも全く同じ部屋の配置で、頭がクラクラしてくる。 衣類も全て、腐っており、ボロボロ。 窓は板を打ち付けられ、開かないようになっている。 「くそっ! 見付からない!」 イラついたナナシは、近くのソファーを蹴り飛ばした。 勿論、僧侶のひ弱な足では蹴倒すことはできず、少し動いただけで終わった。 「物に当たるな! イラついている暇があったら探せ!」 「でもよぉ、このままだとどうなるのか分かんねぇんだぞ! 何でそんなに冷静でいられんだよ!」 「こんなときだからこそ、冷静でいるんだ! 特に探し物の場合は、頭に血が上っている状態ではなにかを見落とすぞ!」 「だぁぁぁもう! 俺はお前のそう言ったところが嫌いなんだよ! 何でもクールに決めやがって!」 「喚くな!!!」 「――――っ!」 ミュシルの怒声の前に、ナナシは黙った。 「我が冷静でいられるのは、冷静でいなければならないからだ。内心は焦りたい、憤りたい。だが、それで何かを見落とせば本末転倒だ! それくらい理解しろ!」 「……………………」 ミュシルの瞳は揺れていた。 ミュシルも、内心は不安で一杯なのだろう。 だが、それを表に出さないようにしている。 なのに―― 「すまなかった」 素直に謝る。
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